レッドさん落ち着いて!
……絆、か。
脳裏に浮かぶのは浴場でリンクが感心するように漏らした言葉。レッドは自分たち兄妹のマスターだ。的確な指揮能力とそれに応える自分たちの多種多彩な戦術は、合わせて評価されることも多い。部下と上司などといった堅苦しい関係とはまるで違う、人はそれを“絆”と呼ぶのだろう。
今までは遠慮していただけ。恐らくそうだ、あいつの性格はよく知っている。
優しくて、でも、控えめで何処か儚い。
昔の経験が尾を引いているのだろう。今更深く踏み込むつもりもないので考えるのをやめにする。
「おやすみなさーい!」
言ってローナが消灯した。こうも突然明かりが消えてしまうとなかなか暗闇に目が慣れない。ネロは諦めて瞼を閉ざすと布団を引き上げた。途端。
後ろから腕を回されて。ぴったりと。
温もり。吐息のかかる距離。
「そういうの」
ネロはゆっくりと口を開いて言った。
「他の奴にもするのかよ」
自分の目の届かない、見えない彼を思って妬いたとか、そうじゃない。
でも。
「なあレッド」
胸の内の鼓動が熱を持って加速するのを感じながら。
「あまり期待させんなよ。じゃないと、俺――」
はたと。
鼻から空気の抜ける音を拾って。
「……おい」
静かな寝息を立てるレッドにネロは深い溜め息をついた。