危険なヘアサロン



ローナは目を丸くして見上げた。

「シフォンが?」
「やめとけ。二度と髪が生えなくなるぞ」
「そんなこともないわよ」

シフォンは語りながらローナの髪を梳かし始める。

「髪を切るのは得意だもの」
「切るだけなら誰でも出来るけどな」
「それは勘違い」

ネロは一旦口を閉ざす。

「草花と一緒で髪は繊細な生き物なの。一本一本が木の枝や茎のように尊い生命を宿しているのよ。それを分からないまま切ったのでは髪だって泣いてしまうわ」

妙に説得力があった。というのも彼女は兄妹の中、いや『X部隊』の中でも心の底から緑を愛する優しいひとなのだ。

「分かる人と分からない人とでは出来が違う。ガーデニングと同じことよ」
「口は悪いけどな。その辺の腕は認めてやるよ」
「それじゃ決まりね」
「ね、ねえっ!」

声を上げたのはピチカだった。

「僕の髪もお願いしたいな……最近、重くなっちゃって」
「おいおい。自分の髪は大切に――」
「人数制限はありますか」
「ひっ」

ネロは背筋に冷たいものが流れるのを覚えた。

「てめえ何処から!」
「えーずっとネロの傍くっ付いてたじゃん」
「気色悪っ!」 

言わずもがなリオンである。

「ということは……」
「不服なら退散するが」
「なんでだよ」

あれを野放しにされてはたまらない。

「切るのはいいけれど、数が増えると覚えるのが億劫ね」

シフォンは笑み。

「いっそのこと全員切り揃えてあげるわ。後の二人も呼んできてちょうだい」
 
 
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