災厄の君へ



しんと静まり返る。

「あ、あははっ」

ピチカは苦笑いを浮かべながら。

「やっぱりそんな気分には──」
「違うの。違うのよ」

言葉を遮るようにして即座に否定した彼女は目と目が合う前に両手を膝の上に重ねて置くと眉尻を下げて視線を落としてしまいながら続ける。

「私、……誰かと遊んだこと……なくて……」

子ども達だけではない小耳に挟んだ誰もがその事実に驚いていた。彼らの家庭の事情というものは何とはなしに聞いていたが、それにしたってそれほどまでに不自由なものだったのか。


どうりで似ていると思ったわ。


あの時、母親は確かにそう言った──あれは揶揄う意味ではなく本質を見抜いた上でそう発言していたのだろう。思わぬタイミングで腑に落ちてしまいながらいつの時代も親の勘というものは侮れないなとルーティが感心を抱いていれば。

「──いいじゃん!」

予想外の返しにシアは顔を上げる。

「せっかくだし鬼ごっこ以外もやろーぜ!」
「だ、だけど……私、……私は」

それでも尚思うところがあるのか引き下がろうとするシアを捕まえるかのようにピチカはもう一度その手を取ると強く握り締めながら。

「大丈夫だよっ!」

明るい声音で語りかける。

「だってあなたは普通の女の子だもん!」


直向きな想いが。

心の隅々にまで行き渡る。


「……だから」

目の前の少女の変化に気が付いたピチカは声量を落として柔らかく微笑みかける。

「もう、頑張らなくてもいいんだよ」


──その時の自分が一体どんな顔をしていたのか分からない。けれどこうして目の前の少女だけではない周囲に気を遣わせてしまったということはきっとそういう顔をしていたのだろうなと思う。


そして。

それは決して悲しいからではない。


「一緒に遊んでくれる?」


とても優しくて。暖かくて。

言葉や態度に表すには難しいほどに嬉しくて。


「、……はいっ……!」


ああ。今度は。今度こそは。

普通の女の子のように笑えていたかしら。……
 
 
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