災厄の君へ
森林都市メヌエルにある実家からテレポートを使って空間転移してきたらしいユウ。それは良かったのだとしても何故今回の騒ぎの発端となった人物までこの場に居合わせているのか──ルーティが安心も何も拭い去れない様子で肩を竦めながら慎重に聞くとシアはにっこりと笑って、
「どうか緊張しないで。お話はもう全てが円満な形でまとまりがついたのだから」
はあ、とルーティは半信半疑に返す。
「自宅謹慎は一日程度で済んだからな」
ユウは鼻を鳴らして腕と足を組みながら。
「ブランの生計を維持しているのはこいつ一人の力と言っても過言じゃない。内容はともかく一度や二度の不祥事があったからといってそう易々と手放すのは惜しいと考えたのだろうな」
その口振りから察するにユウに関してはX部隊としての活動で得た金銭は一文たりとも実家に入れていないのだろう。どうりでどちらの親が相手であれ棘のある振る舞いをする訳である。
「うふふ」
シアは袖を口元に運んで笑う。
「おにいさまったら」
「なんだ」
「嘘ばかり」
ルーティは目を丸くした。
「おい」
何故やら反抗の態度を見せるユウにシアは微笑みかけながら自身の唇の前で人差し指を立てる。
「ブランの誇る宗家の長女が与り知らぬところで騒ぎを起こしたと知ったお父さまはそれはそれはひどい剣幕でお怒りになったわ。それ自体は覚悟していたのだけどおにいさまとて譲らなかった」
頬にほんのりと薄紅を浮かべて擽ったそうに。
「あんな風に怒るのね。……嬉しかった」
笑いかける。
「温情もそうだけれど処分を免れて私が今ここにいるのは間違いなくおにいさまのおかげ。だから本当に……ありがとう。おにいさま」