災厄の君へ
人より特別不器用な事を昔から知っている幼馴染みだ。ほんの少しであれ力になれればと思って話の流れを読んだ上で駆け付けたのだろう。それはこの場を譲って隣から動くような素振りすら見せないパートナーも同じ。
「こいつを連れて実家に戻る」
ユウは続けて、
「事の顛末を話した上で交渉する」
「それ……大丈夫なの?」
不安げに眉尻を下げながらリムが訊ねれば。
「知らん」
ユウはふんと鼻を鳴らして。
「……そもそもの話。埃を被った書物に記されているレベルの遠い昔の先祖の尻拭いを何故この代になっても尚拭い続ければならないのかその理由さえ明確ではなかったからな」
呆れたように小さく息を吐きながら。
「分家だの宗家だの──生まれによって凝り固まった期待や差別が課せられるとは古臭いにも程がある。私が両家に持ち掛けるのはその馬鹿げた仕来りを終いにしろという話だ」
リオンとリムは思わず顔を見合わせた。
「話が通じなかったら」
「縁を切る」
今度もユウはきっぱりと言い放つ。
「当然だろう。そうでなければ此方から強制的に断ち切ってやる他ない」
小さく息を吐いて。
「……幸いにも宛てはあるからな」
それは。
「ちょっと」
ぽかんとしているリオンをリムは肘で小突いた。
「なんで何も言わないのよ」
「えっ」
「二度と言わん」
「ほらぁ!」
リオンは目をぱちくりとさせて呆気に取られている様子だったが次第に事を理解したのかその日誰よりも何よりも表情を輝かせながら。
「もう一度言ってくれ!」
「二度と言うかこの駄犬ッ!」