災厄の君へ
視線を与えて促してやるまでもなく。
「ははっ」
一部始終そのやり取りを口を出さず見守っていたその人は失笑して口を開く。
「いい考えだ」
ロックマンはルーティに視線を遣る。
「なかなか頭が回るじゃないか」
「えっ? あ……あはは」
それは果たして褒め言葉だったのだろうか──唐突に話を振られたのでは気の利いた返しが出来るはずもなくただ苦笑するだけのルーティに構わずロックマンは視線を戻して。
「いいだろう」
口元に浮かべた笑みは本心なのか否か。
「ミカゲ。下がりなさい」
ロックマンが言うとミカゲはすんなりと構えを解いて持っていた水苦無を消失させた。かと言って表情を緩めてくれるはずもなく変わらず冷たく見据えたまま一歩二歩と引き下がった後土埃を僅かに残しながら姿を掻き消して。直後「うわっ」と声が上がったので釣られて見てみればいつの間にやらパックマンの横に立っている。
「驚かすなよな」
……さて。ユウは未だにしゃくり上げているばかりの少女の姿を見た。思えば彼女がこれだけ喜怒哀楽といった感情の全てを曝け出しているのを見るのは初めてだったかもしれない──それは単に見る機会が少なかっただけなのかそれとも。
「リム殿」
駆け寄ってきたその人に逸早く気付いたリオンは眉尻を下げて犬耳を垂れる。
「すまない。あの時は」
「そんなこと気にしないで。結果としてどうにかなったんだから」
答えた後でリムは本題を切り出す。
「……どうするの?」