災厄の君へ
願ってもみなかった。予測などできなかった。
未来を予知する力を持ってなかったのがその理由じゃない。例え持ち得ていたのだとしても。
透明な海に溺れた、この視界では──
「うぁああぁあ……っ!」
泣き叫ぶシアを背にしても尚ユウは表情をひとつ変えず冷静さを欠かなかった。
「被害は最小限に抑えられている」
慎重に。それこそ割れ物を扱うかのように。
「この件で各々が命の危機に瀕したのは事実だが戦場に例えてみれば然程珍しい話でもない──」
「故に些細な事柄と判断を下しあわよくば身内の
殺気を孕んだ双眸が鋭さを増して睨む。
「ならぬ。慈悲で刈り取った処で若芽は何れ葉を伸ばして過ちを繰り返す。であれば正義の方針に倣いこの場で土ごと取り払い根絶するまで」
ミカゲ・クアトン──どちらが普段の姿なのか知らないが随分と様子が違うな。暗殺兼任の忍という情報までは把握していたがどいつもこいつも正義部隊に属しているというだけで正義に対して強い拘りを持ち過ぎじゃないのか。
ひっそりと小さく息を吐いてユウが次に口を開こうとするとリオンの尻尾が無防備に垂れていただけの手をそろっと撫でた。無論構えと言っているのではないその発言は待てと促しているのだ。ユウは意図に気付くと一度口を結んだ──けれど糸が切れたように舌を打てば今度腕を組みながら。
「突き詰めて言えば普段お前たちが無駄に慕ってくれている特殊防衛部隊に所属している隊員の関係者だ。より良い関係を取り持つ為にも間違った選択はするべきではないと思うが」
ユウは付け入る隙も与えず更に続ける。
「……そしてその判断を下すのはお前じゃない」