災厄の君へ
靴音。
「ミカゲ」
誰かが小さく名前を呼んだその人は目元に暗く影を差し込みながら一歩、また一歩と体を引きずる彼女の元へ歩みを進めていく。
「あいつ何考えて」
呟くスピカの側でルーティは思い出す。
かの少女だけは。
必ず。此の手で制裁を──
「まさか」
次の瞬間である。
「!」
気付いたシアが近くに転がっていた硝子の破片を念力で持ち上げてミカゲに向かって放ったが水苦無を用いて容易く弾かれた。シアは強気に睨みを利かせたが動じないままに冷たく見下すミカゲに異様な空気を感じたのか更に眉を寄せる。
「うふ……ふふふっ!」
かと思えば不敵に笑い出して。
「私を殺すつもりですか?」
ミカゲは答えない。
「私の仕打ちを悪だと見定めるのであれば素直に認めましょう。けれど私を斬り捨てたのだとしてもブランの運命──即ち負の連鎖は違わない」
自嘲するように笑みをこぼして吐き捨てる。
「これは一種の呪いなのだから」
先人の犯した過ちは。
未来永劫。先駆ける者たちの枷となる。
「うふふふふ」
武具の構えられる音を他所に。
「ふふ……ふふふふふっ」
少女は留め具が外れたように笑っていたが。
「おにいさま」
……ふと。
薄笑みを湛えながら口を開く。
「──さようなら」