災厄の君へ
勝ち残ったのは。
「……!」
誰より早く頭の上の大きな犬耳を跳ねて反応を示したのはリオンだった。煙が薄ら晴れてその人の姿を見つけると地面を蹴り出す勢いで。
「──ユウ!」
小さく咳き込んで尚も踏み堪えていたがパートナーの声が聞こえるとそれだけで気が抜けたのやらその場に片膝を付いた。我ながら情けないことだと自分自身に呆れながらユウは駆け寄ってきたリオンが身を案じるのをいつもの調子で冷たくあしらいながら向かって正面を見遣る。
「……う」
次いで晴れた煙の中。
横たわっていたのは一人の少女。
「従兄妹殿」
リオンは小さく呟いた。
「……シア」
手を借りながらゆっくりと立ち上がったユウはその名前を静かに口にした。少女は良くも悪くも意識を手放すまでには至らなかったようでユウを視界に捉えると腕を震わせながら体を起こそうとした──けれど立ち上がろうとしても脚に力が入らないのか上手くそれが叶わない。倒れ込みそうになったところを両腕で支えながら口を開く。
「私は……っまだ……!」
そうして。痛ましくも懸命に脚を引き摺るように腕を立てて進もうとするその姿は。
「……やはり」
その時リオン含む全員が真実を察した。
「従兄妹殿は……脚が……」
幼い頃から焦がれていた。
あなたのように未来を見通す目を持つこと。
自由に飛び立つ力を持つこと。
いずれも。
私には無いものだった──
「……あいつは」
ユウは静かに語る。
「生まれつき脚が使えない」
だから。
立って歩くことも。
「できます」
シアはくっと拳を握った。
「立って歩くことも未来を見通すことも」
表情に影を落としながら。
「……だって、私はッ」
私は──