災厄の君へ
常人には目に追えないレベルの速度で空間転移を繰り返して攻撃を回避していたが遂に攻撃の一部が防壁を掠めれば元々入っていた小さな罅から亀裂が走り砕け散った。シアは一瞬目を開いたが怯まず赤紫色の波動を打ち出して正面に飛び出したユウの防壁を砕き同じ状況にまで引き込む。
「私は──宗家の娘だわ」
表情に影を落としながらぽつりと。
「あなたは分家の長男であって本物じゃない」
偽物。
「私は偽物じゃないッ!」
透明な粒が浮遊する。
「始祖の血を色濃く受け継ぐ私が。ただのオリジナルの真似事で遺伝子を組み替えて造り出されただけの紛い物の血を色濃く受け継ぐあなたに劣るなんてそんな間違いがあってはならない」
ユウは冷めた目で見つめている。
「歴史を変えてはいけない。運命を塗り替えてはいけない。……絶対に」
昂った感情を吐き出すかのように叫ぶ。
「これまでもッこれからもッ!」
何食わぬ顔で。
罵詈雑言も屈辱も笑顔で取り繕ってきた。
大丈夫。だって私は──
「……シア」
ようやく口を開いたがそれ以上言葉を続けられることはなかった。期待を持っていたつもりもないが一瞬──ほんの一瞬でも言葉の続きを待って動きを止めそうになったシアはそのまま閉ざされる唇の動きを見て寂しそうに眉尻を少しだけ下げた後くっと瞼を瞑って──次に瞼を開いたと同時に双眸を星のように煌めかせ薄桃色のエネルギーを全身に纏い最後の一撃に賭ける。その様子を目にしたユウも彼女ほど激烈ではないにしろ肌を刺すような鋭い空気を波動のように隙間なく広げると薄藍色のエネルギーを全身に纏って。
「おにいさまッ!」