災厄の君へ
シア。
「誇り高き宗家の長女」
、違う。
「私たちの愛娘」
……違う。
「宗家の顔に泥を塗りたくる不出来な娘」
「劣悪愚鈍な失敗作」
私は私は私は。
「偽物」
くっと奥歯を噛んで憎悪が膨張する。
「おにいさまッ!」
結果として敵わずとも構わないと胸に抱いてきたプライドをかなぐり捨てて立ち向かう。薄桃色のオーラを己が出し得る限界値まで引き出して一心不乱に。対峙する男も応えるようにして薄藍色のオーラを強くその身に纏った。地上に居る誰もが呆気に取られるほど激しく打ち合い鬩ぎ合い──様々な攻撃が壁や床に被弾する。
「何あれ兄妹喧嘩?」
パックマンは顔を顰めてぼやいた。
「ヤバすぎ……」
細かな事情を知らないまま傍目にするだけなら確かに呆れて物も言えない至極くだらない光景だろうがその実それだけに収まらない情感というものがある。古くから伝わる凝り固まった仕来りが彼らを呪縛している愚かな事実をこの場にいる何人が理解して寄り添えるだろう──リオンは終始無言となってその光景を目に焼き付けた。両者共に譲らない戦いが続いているが無論そう長くは持たない。それは随分前から予感されていた結末。
……だから、……もう。