災厄の君へ
時間を稼ぐ程度の事は然して問題ではない──慈悲か情けかローナを解放したが即座に切り返しを狙ってきたのを見て攻撃を手刀で落とした後回し蹴りを見舞った。入れ替わるように向かってきたネロとラッシュの攻撃を順に往なしながらリオンはもう一度高く飛び上がった二人を見遣る。
「うふふふふっ」
あくまでも上品な声色で笑い声を上げながら放出される紫色の光の玉を空間転移で容易く回避した後自身を中心に赤紫色の波動を打ち出すシアにユウは一撃二撃と展開した薄藍色の防壁で防いだ後空間転移によって目前にまで接近して蹴りを繰り出した。一見してか弱い少女に容赦のない仕打ちだがそれだけのことはある──
「野蛮なひと」
薄桃色の防壁で受け止めたがひび割れる。けれどその程度想定内であったらしくシアの双眸が青色に瞬くと強い念力でユウの体を一瞬にして弾き飛ばした。飛ばされた先で壁に激突しそうになるも既の所で体勢を立て直し、追撃を狙う桃色の光の玉の群れを高速で空中移動しながら回避すれば当然のこと被弾した箇所から順に爆発を起こし建物は大きく揺れ、砂煙が立ち込めていく。
「……おにいさま」
シアの背後に桃色の魔方陣が大きく展開する。
「おにいさまおにいさまおにいさま!」
それは次第に強い光を灯して。
「あなたさえいなければッ!」
幼い頃から焦がれていた。
あなたのように未来を見通す目を持つこと。
自由に飛び立つ力を持つこと。
いずれも。
私には無いものだった。
羨ましいけれど疎ましいわけじゃない。
立場を示す上では私のほうが上だったから。
それだけだったけれど。
嗚呼。なんという恥さらしでしょう。きっと私はこの世で最も醜い行為をこの手で犯してしまっているのね。あの人が築き上げたものを奪い上げたって私のものになるわけではないというのに──分かっていたことだけれど。
示したかった。気付いてほしかった。
あなたが汲んでもらえたように。
私も。……