災厄の君へ



──爆発音。

「チッ」

立ち込めた黒煙が波動によって弾かれる。

「やれてないよね」
「当たり前だろ」

こうして彼らだけで言葉を交わす分には普段と何ら変わりないのである。膝に手を付きながら浅く息を弾ませるルーティが問えば先程舌を打ったその主であるスピカは眉を顰めながら苛立った様子で返した。ぐるりと囲んだその中央に立ち竦むのは一人の男──集中の為か一言も言葉を発さないまま構えを取る様に小さく悪態をつく。

「……化け物かよ」


制御するべくして着用しているこの黒い鉢巻を通して視える限界──踏み越えないギリギリのラインで十数名いる戦士達の戦術立ち回りその全てを透視しながら対処する。先程は一笑して豪語したもののそれだってどれだけ持つのか否か。

いや。……であれば条件は相手も。


「余所見なんかしちゃって!」

まるでその為に設けられた広さであるかのようだった。高く飛び上がって互いの技を情け容赦なくぶつけ合うユウとシアを傍目に──けれどそんな声が聞こえればゆっくりと目を向けて。

「ほぎゃあ!?」

水のベールを纏ったローナの突進を回避して足を払いバランスを崩させたが直後水技を打たれないように手首を捕らえてそのまま組み敷く。

「折れてもいいのなら」

リオンは静かに言葉を紡ぐ。

「好きに暴れてくれて構わないが──」
 
 
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