災厄の君へ
ユウは顔を顰める。
「だって、おにいさま」
問うより先に解かれた。
「私は宗家の長女で貴方は分家の長男」
シアは自身の胸に手を置きながら進み出る。
「ミュウの血筋たる宗家の繁栄を助けるために。未来永劫、先祖の過ちを償うべく。かつてミュウの遺伝子を組み替えて造り出されたミュウツーの血筋たる分家がその生涯をかけて尽力する」
目を細める。
「それはこれまでもこれからも。──規律であり運命であり必然だったはずなのに」
赤々とした雫が滴る。
「
──心臓が大きく鼓動する。
「ずっと。嘆いて羨んで憎んで過ごしてきた」
空気が暗く重く沈む。……淀む。
「愛していた」
次の瞬間硝子のひび割れる音が遠く響いて。立ち並んでいた円筒の内一つの割れ目からどろどろとした液体が溢れ出す。
「……これは逆襲ですおにいさま」
打って変わってシアは柔らかく笑いかける。
「皮肉ですね。かつて私の先祖はその所業を身を挺して止める側だったのに」
空間転移を使って元の場所へ。
「でも、だからこそ──戻しましょう」
在るべき姿に。
「……言いたい事はそれだけか?」
ユウが聞くとシアはにっこりと笑った。
「はい」
口元に浮かべた笑みを深めて。
「それでは。おにいさま」
暗闇に浮かぶ赤。
少女は嘲るように嗤う。
「──さようなら」