災厄の君へ
今の今更──見紛うはずもない。
ルーティとミカゲの双眸を縁取る赤は。
「あっ」
ミカゲが構えた小刀を振るうよりも早くユウは双眸を金色に瞬かせて空間転移した。それでも結局それほどの距離は取れないまま不意打ちで受けた左肩の傷を右手で強く押さえ付けて庇うようにしながら睨み付ける──まさかこうも小癪な真似をされるものだとは思っていなかった。ああくそ、思いの外傷が深くて眩暈がする……!
「やっぱり──ユウって優しいんだね」
ルーティは笑う。
「そんな弱みに付け込むのは心が痛むけど……」
「聞き捨てならないわよルーティ・フォン」
ルルトはその隣に並びながら。
「敵に情けをかけようだなんて」
「あはは。一応は仲間だったんだから」
静かに目を向ける。
「今はもう赤の他人だけど」
どんな暗示をかけられているのやら。
兎角今ここにいる彼らには自分が情け容赦を掛けなくていい悪の存在に見えているらしい。恐らくはシアにとって都合の良いように記憶が書き換えられているのだろう──例えば彼らにとって彼女こそ思い慕う最高の仲間であり、そんな彼女を傷付け貶める自分こそ最悪の敵だとか何とか。
「あー! そうすればよかったのかぁ!」
ローナは感心したように手のひらに拳を置く。
「案外簡単じゃん!」
「仲間想いなのよあれでも」
リムは微笑を浮かべながら言ったが。
「見殺しの常習犯だけど」
小さく呟いた頃には酷く冷めきった表情で。
「本当。貴方って自分のことばかり」
「周りのことなんて何も見えてないんだね」
ピチカは両手を後ろで組みながら目を細める。
「間違っているわね」
「そうだね。間違ってるよ」
口々に投げかけられる言葉の刃。
「物事は正しく在るべきだ」