災厄の君へ
広間の奥に鎮座する他より一回りも二回りも大きな円筒の前で浮遊する優雅に脚を組みながらシアが手招けば四つのミュウツーボールが参じた。ゆっくりと両手を広げれば応じるようにミュウツーボールはその口を開いて白い光を吐き出して中に閉じ込めていたものを解放する。
「……友達?」
その台詞にユウは思わず眉を寄せた。
「はい」
程なくして白い光が形を成したのは紛れもないリム、ピチカ、スピカ、リオンの四人の姿だった。笑みを浮かべて返す彼女が高度を落とせば四人は守るようにその傍らへ歩みを進める。
「だっておにいさまには不要でしょう?」
シアが手を伸ばせばピチカは素直にその髪に触れることを許した。誰よりその振る舞いや空気に恐怖を覚えていた彼女がほんの少し目を離していた隙に打ち解けているはずもない。そのことをよく知っているスピカやリムがそうも簡単に接触を許すはずも──思っていた以上にあれによる洗脳の効果というものは絶大らしい。
となればあの兄妹も恐らくミュウツーボールに捕まったのだろう。どうりで此方の心情を乱す言葉遣いをしてくるわけだ。
「随分と回りくどい真似をする」
吐き捨てながらゆっくりと地面に降り立つ。
「そんなに拠り所が欲しければ仲介人くらいにはなってやったがな」
「ふふ。おにいさまにそれができたかしら」
「貴様の態度次第だ」
シアは目を細めてにっこりと笑う。
「でしたら交渉決裂です」
そうして瞼を閉じると彼女の体の表面にほんのりと青白い光が灯った。そのまま簡単には届かない位置にまで飛翔すればそれを合図に残された四人はユウに向き直り構えを取る。踏み込む音に目を向ければローナ、シフォン、ネロの三人もそこに並んでいた。ユウは目を細めて呟く。
「嘗められたものだな」
やがて。
双眸が金色に瞬く。
「簡単に仕留められると思うなよ」