災厄の君へ
流石のユウも足を止めた直後だった。
「逃げないでね?」
いつの間にか目の前に来て。
手首を掴んで純粋無垢な邪気の無い目で。
「駄目だよ」
口元には確かに笑みを浮かべているはずなのに。
どう見ても足掻いても。
視界に捉えて離さないその目は。
「絶対」
思うより強い力で腕を引かれて通路の先へ。
「っ……おい……引っ張るな!」
そんな声も虚しく両開きの扉の目の前まで半ば引き摺り出されるように。ローナはそこでようやくぱっと腕を離すと肩を竦めて笑って背中を向けてその扉を押し開いた。巨大な怪物が口を開くかのように暗闇ばかりが広がっていて立ち竦むユウを一体三人の内の誰がそうしたのか、兎角容赦なく背中を押して突き飛ばす。
「くっ」
流石にそれで転びはしなかったがそれでも大きく体がよろめいた。踏み堪えて振り返るのと同時に扉は大きな音を立てて閉ざされる。
「あははははっ!」
狂ったような高らかな笑い声。
「おい──」
いい加減に状況を説明しろと振り向きざま苛立ちながら口を開こうとしたその時である。
「危ないっ、ユウ!」