災厄の君へ
例えば、違和感なんてものは感じなかった。
特別仲が良いわけでもない相手だ。此方の能力と性格と環境全てを照らし合わせた上で毒突くような連中は残念ながら決して少なくはなかった。だからこそ疑う気にはなれなかったしそもそもの話興味が湧かない。そういうものだと諦めてしまっているというのが大半で結局のところ彼らもその一部でしかないというだけの話。
それにしても。
「ふんふんふふーん」
行こっかと笑って先導するように歩いていく彼女は確かに一階通路の奥を目指していた。あの女が駄犬を捕らえて姿を眩ませるその直前言い残した台詞だけは鮮明に覚えている。
「おい」
流石に不信感を感じて。
「お前は家族のことを愛しているのか?」
問いを投げかけようとすれば。
「……は」
突拍子もない。
「愛しているはずがないよな」
ネロは自嘲気味に薄く笑みを浮かべながら。
「家族だとも思っていないだろうな」
「……どういう意味だ」
煽りにしては違和感を感じてユウは眉を寄せる。
「可哀想だわ。……あの子」
続けざまシフォンが口を開いた。
「情に駆られたのか?」
「そうかもしれないわね」
あれだけ敵意を燃やしていたのに?
「家族だけど血の繋がりは決して濃くはない」
シフォンは伏し目がちに語る。
「何だか……似ている気がするもの」