災厄の君へ
まるで、何事もなかったかのように。
辺りはしんと静まり返る。
何もしなかったわけじゃない。
自分なりに最適解を選んだつもりで。
眉を顰めながら頭の中で言い訳を並べたところでそれが本人に届くはずもない──ユウは自身を落ち着けるようにゆっくりと息を吸って吐き出すと足を踏み出した。何にせよ油断を取って優秀な駒を取られてしまったという点は大きい。大人しく従うのは癪だが彼女の提示した制限時間とやらもそろそろのこと過ぎていることだろう。
反発している場合でもないのだ。今はとにかく奴の思惑の通りに動いてやることにしよう──
一階、エントランスホール。
二階通路からその場所に戻ってきたユウは表情にこそ出さなかったが驚いた。壁や床の至る所が抉れたり崩れたり戦闘の爪痕というものが残されている──ここに最後まで残っていたのが誰なのかというのは何となく想像が付いた。
その本人の姿が見当たらないということは。
「おや?」
ぎくりと肩を跳ねた。
「やっぱりユウじゃん!」
快活な声に振り向けばそこに居たのは。