災厄の君へ
ドクンと大きく心臓が跳ねる。
「っ……違う」
頭痛が走って視界が眩む。──こんな時に!
「何が違うの?」
ユウが思わず頭を抱えて項垂れている隙にシアはその後方に回り込み耳元で囁きかけた。
「おにいさまの発言や行動の全てに意図があったものだとして──これまで誰か一人でも気付いてくれた? 汲み取ってくれた?」
幾つもの景色が脳裏にぱっぱと映り込む。
「おにいさまは本当に誰かを救えていたの?」
「……やめろ」
「何をしてきたの?」
くっと奥歯を噛み締める。
「寵愛を受ける雛鳥のように与えられるものだけ当たり前の顔をして受け取るばかりで」
やめろ。
「何もできなかったくせに」
──何もしなかったってことかよ。
「やめろッ!」
叫んだと同時に現実に引き戻された。途端に両目の奥に鋭い痛みが走って倒れかかったがそれも何とか踏み堪える。幸いにも痛みはまるで直ぐさま引いて事なきを得た。残念ながら状況自体は変わっていないがそれでも自分自身の状態が安定するのであればそれが何よりも現状は有り難い。
「うふふふふっ……」
気付けばシアの姿が見当たらない。
「おにいさま」
声が響く。
「一階通路奥のホールで待っています──」