災厄の君へ
宗家の長女──シア・ブラン。
幼い頃から宗家と分家以上の繋がりは薄く極力関わりを持とうとしなかった甲斐あって表面上はただの従兄妹として通っているがその実不仲もいいところである。不仲とは一概に言っても詳細的に話すなら一方的に深い恨みを当てられているというだけの話になってくるのだがそれでもこれ以上の問題を避ける為に距離を置いてきたというのに自ら詰めてくるのだから納得がいかない。
そんな彼女が何の前触れもなく、いや──再会時のやり取りが引き金となったのかよりにもよってX部隊とフォーエス部隊の一部メンバーを巻き込んで仕掛けてきた。状況を前半と後半に分けるならば前半は数人に毒を仕込んだ上で解毒剤を手に逃げ回り、後半は過去の遺物のコピー品を用いて時間制限付きの鬼ごっこ……
到底許される行為ではない。宗家の長女がただの単なる私怨で身内の同僚に危害を与えるなど何を考えているのか──こうなってしまった以上両家の判断を待つなんて呑気な話は通らないだろう。敵に回したのがX部隊連中だけなら未だしもよりにもよってあの正義部隊である。
他の連中の手を煩わせるまでもない。
そうとなれば。……私がこの手で彼女を。
「、ユウ」
彼が不意に足を止めた事には気付いていた。
「見たのか」
ユウは冷めた口調で問いかける。
「心の声なんてものは隠そうと思えばいくらでも隠し通せるものだよ」
リオンは表情に影を落としながら答える。
「そうして私のこの能力を熟知しておきながら敢えて貴殿がそうしなかったのはそれ相応の迷いがあったからなのではないか──?」