災厄の君へ



場面は切り替わり──別の通路。ゆっくりと浮遊しながら巡視する複数のミュウツーボールが完全にその場から過ぎ去ったところで一つの扉のドアノブが回った。そのまま扉は音を立てないようにしてゆっくりと押し開かれ中から様子を窺うべく一つの影が顔を覗かせる。

その正体はユウだった──彼もまた空間転移や浮遊といった持ち前の技を駆使することでミュウツーボールの追尾から逃れることに成功していたのである。あの時提示された制限時間が確かなものであればもうそろそろタイムリミットを迎えてもおかしくはないはずだが──酷く此方を恨み憎んだ様子の彼女がそうも簡単にそれを認めてくれるものとも思えない。

先が思いやられるとはまさしく今この時のことを指すのだろう。未来を予知する能力を持っていながらおかしなことだ──苛立ち僅かに小さく息を吐き出して踏み出そうとしたその時。

「、!」

何かが触れようとしたその感覚に。

「……ユウ」

すかさず振り返ったが唇に指先を置かれて。

「私だ」


靴音が響く。

隣り合って歩いていたのは。


「従兄妹殿の事だが」

重く口を開いたリオンに対して。

「いい」

ユウはすかさずきっぱりと遮るように。

「これ以上深く追及するな」

途端頭の上の犬耳を小さく跳ねて口を結びながらリオンは表情に影を落とす。

「そもそもの話身内の問題や責任を他人に預けるつもりはない」

ユウは変わらず冷たく言い放つ。

「余計なことは考えるな」
 
 
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