災厄の君へ
息を潜めて。床に落ちた影を頼りに見送る。
「、……」
溜め息に近しい息を吐き出して物陰から出ようとすれば背後から腕を掴まれた。声を上げる間もなく口まで塞がれた少年はそのまま物陰へと引き戻される。見送ったはずの影基ミュウツーボールが引き返してきたのはその直後だった。
「ぷはっ」
それが今度こそこの場所を離れたところで解放を許されたので慌てて振り返ったが。
「──拙者で御座るよ。ルーティ」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれれば。
「み……ミカゲ……?」
靴音が響く。
人の気配は感じられない。
「他の二人は」
隣を歩くミカゲがそう訊ねるとルーティは途端に気まずそうに目を逸らした。えっと、と小さく洩らしたが辛そうに眉を寄せて上手く答えられない辺り良くない結末を迎えたらしい。
「……後何分かな」
ルーティは不安げに呟く。残りの時間がどうなのかもそうだが逸れた他の仲間達の安否も心配だ。探し回るわけにもいかないこの現状ではとにかく神頼みであれ無事を祈る他ない。
「時間の問題で御座る」
その時ばかりは彼の発言の意図を読めなかった。
「かの少女だけは」
ミカゲは冷たく刺すような目を細めて紡ぐ。
「必ず。此の手で制裁を──」