災厄の君へ
突き動かされるようにして飛び出したのは。
「リム殿ッ!」
思わずリオンは声を上げたが激しさばかりが増す攻撃の最中とてもじゃないが共闘は出来そうもない──それに関しては彼女も理解した上だったのだろう静止を強く促す視線をその背に受けながら眉を顰めて振り切り元凶に立ち向かう。
「いつまでも続かないわよ」
同じく薄青色の防壁に阻まれようともリムは拳に次いで蹴りを見舞いながら。
「貴女が敵に回したのは分家の長男じゃない」
鋭く見据えて叫ぶ。
「X部隊の──ユウ・ブランよ!」
シアの目の色が変わった。
「、!」
途端リオンが応戦していたミュウツーボールはまるで急ブレーキでも掛けるかのように不自然な形で動きを止めるとぎょろりと一斉に不気味な目玉の模様をリムに向けたのだ。何を言うより早く突撃を仕掛けるそれをすかさず波動弾で撃ち落としながらリオンは焦りの声を上げる。
「いけない──リム殿ッ!」
「──行きなさいッ!」
リオンは目を開いた。
「覚悟の上だわ!」
でもね、とリムは続ける。
「タダでやられてなんかあげないわよ!」
リオンは息を呑む。
「急いで!」
今現在ミュウツーボールは呆気にとられ立ち尽くしているリオンには目もくれずリムのみに狙いを定めて捕獲しようと奮闘している。主たるシアの命令に従っているという話は本当のようだ──リオンはじり、と靴裏を擦って後退したが次の瞬間全ての感情を振り払うように駆け出した。その様子を尻目に捉えた後、リムはミュウツーボールを拳や蹴りで弾いて行く手を阻む。
「強気ですね」
シアは目を細める。
「実際強いもの」
「口で言うだけならどうとでも。それは先程の男にも分かっていたのではないかしら」
リムは苦笑した。
「……そうね」
でも、と。切り替えるように構え直して。
「時間稼ぎくらいにはなってやるわ」