災厄の君へ



これが。揶揄う為だけの嘘や世迷言であればどれほど良かったことだろう。

「くっ」

紛う事なく彼女は──本気だ。ともなれば此方もいちいち周囲を気にかけている余裕があるはずもない。ユウは空間転移を使ってミュウツーボールの突撃を転々と回避すると次の挟み討ちを高く飛び上がって躱し、尚も追尾するミュウツーボールから逃れるべく浮遊しながら飛び出して。

「埒が明かないわね!」

エントランスホールに残ったリムは拳を構えながら息を吐き出した。その背を守るようにして背中合わせで構えたのはリオンである。

「体力が続く方を選ぶのが得策だと思う」
「正解はないってことね」

直後突進を仕掛けてきたミュウツーボールを拳を振るい蹴りで落として回避。

「……あの子」

リムが指しているのは当然シアである。

「ずっと考えていたの──負の感情を抱いているのにどうして気付けなかったのか」

此方を狙い飛び交うミュウツーボールを視界から外さないように休まず目で追いながら。

「……本当は」


雷の轟く音が鳴り響く。


「チッ」

舌を打ったスピカは壁に向かって最大出力の雷をお見舞いしたようだった。だがしかし当然の如くその壁は無傷──どれだけ強大な力をぶつけられようと逃がすつもりはないらしい。

「スピカ!」

ルーティが叫べばスピカも気付いて背後からのミュウツーボールの突進を躱した。休む間もなく飛び出して体の表面に黒の閃光を迸らせながら加速──その先に居たルーティの後ろでこの状況下に怯えるピチカの手首を掴んで叫ぶ。

「……逃げるぞ!」
 
 
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