災厄の君へ
「ユウ」
見送りが終わればこの場に居続ける必要があるはずもない。各々が散り散りになるのに混ざり立ち去ろうとしたその人を呼び止めたのは。
「何か食べようか」
ユウが振り返るとリオンはにっこりと笑った。とはいえそう短くもない付き合いである──急ぎ取り繕った笑顔の裏で何を考えているかなどお見通しでユウは静かに目を細めた。いつもなら毒突くなり何なりして突き放すところだが彼なりの気遣いというものに委ねてみたいという気持ちが気まぐれに先行して短く息を吐き出し口を開く。
「そうだな」
たったそれだけの返事。やり取り。それでもリオンは安心感というものを覚えて踏み出す。けれどその直後に閉じたはずの扉が小さく軋んで開いたのを大きな耳が聞き逃す筈もなく。
「……外食先はメヌエルか?」
ユウが訊ねると扉を開いた隙間から顔を覗かせたその人は苦笑いを浮かべて。
「だ、駄目?」
良くも悪くも父親似だな。
「ユウ……」
「予知ではなく予測はしていた」
閉じこもっていたところで埒が明かないか。
「少しだけだからな」
ユウが腕を組みながらぶっきらぼうに言うとルーティはぱっと顔を明るくした。
「ふふ」
リオンはそんなルーティに歩み寄って耳打ち。
「……だから言っただろう?」
嬉しそうに。
「ユウはツンデレなんだ」