災厄の君へ



初撃を躱したが切り返しに対する反応が遅れたのを見過ごせず。床を強く深く踏み込んで蹴り出し襲いかかるミュウツーボールから庇うように飛び出したのが彼女の最後──赤紫色の光に呑み込まれて容赦なく。それはまるで恐ろしいモンスターが口を開いて長い舌で巻き取って喉奥へ引き摺り込むかのように容赦なくそれでいて呆気なく。

「ルルトッ!」


最初の犠牲者は──彼女だった。


「お姉ちゃんっ!」

窮地を救われたピチカは目尻に涙を浮かべて思わず叫ぶもルルトを捕らえたミュウツーボールは直後ミカゲに投げ付けられた水苦無を弾くと逃げるように踊り場で浮遊するシアの元へ。

「……貴様ッ!」
「相手をしてあげてもいいのだけど」

シアは指先でミュウツーボールの表面を撫でて。

「それだけの余裕があるのかしら」

ハッと目を開いたミカゲは死角から飛び込んできた複数のミュウツーボールの突進を躱す。そのまま強く踏み込み追撃を許さない速さで他のメンバーの間を縫うようにして駆け抜ければエントランスホールを抜けた先の通路へ。時折尻目で追尾を確認しながらやむを得ず逃走に徹する。

「うらぁッ!」

一方でエントランスホールに残っていたラッシュは炎を纏った拳を振るい襲い来るミュウツーボールを弾き返していた。奴らが口を開かない限りは破壊までは敵わずとも弾くことは出来るらしい。ただ逃げるよりも分かりやすいが──

「ぬぅッ──!」

油断を取られれば瞬く間に。

「二人目」

シアは浮かべた笑みを深める。

「さぁ。おにいさま。……どうするの?」
 
 
49/97ページ
スキ