災厄の君へ
あの目玉はあくまでも模様に過ぎない──それなのにまるで命を宿しているかのように視線というものを感じてそれはさながら蛇に見込まれた蛙のような──じわじわと近付いてくるミュウツーボールに従って一行はゆっくりと後ずさった。けれど当然そのすぐ後ろには壁がありこれ以上は引き下がることを良しとしてくれない。
「冗談だろ」
スピカがぽつりと言った。
「俺たちを捕まえてどうしようってんだよ」
「お、鬼ごっこだって言ってたよ」
ピチカが怯えた声で続ける。
「でも……負けちゃったらどうなるの?」
ユウは顔を顰める。
「冗談でも何でもない。負けたらそれまでだ」
その言葉に誰もが緊張感を抱く。
「……俺たちみたいなポケモンでも」
「捕まるってことよね」
ネロに続けてシフォンが口を開いた直後、鳴き声をあげながら畝る電撃と目にも留まらぬ速さで水苦無の一撃がミュウツーボールを襲った──が、さも当然かのようにミュウツーボールはそれらの全てを弾き、攻撃を放ったルルトとミカゲはそれぞれ眉を寄せる。
「逃げるしかなさそうだね」
覚悟を決めたようにルーティが言った。
「皆まとめてテレポートで逃げるとかさぁ!」
「それが出来たらやっている」
後ろにある扉さえ攻撃を弾いたことだ。電波が通じないことも然りこの状況下で駄目元で試すにはあまりにも危険すぎる。
「……来るぞ」
直後。ミュウツーボールが獲物に飛び掛かる獣の如く飛び出すのを見てルーティが叫ぶ。
「皆、逃げて!」