災厄の君へ
──ぞくりとした。
一聞して普段と変わりのない声音のようで何処か冷たく恐ろしく──だからこそ反射的に双眸を金色に染めて振り向きざまに腕を払った。当然そうした頃にはシアの姿はそこにはなく小さく笑う声にユウが眉を寄せて振り向けば階段踊り場の上をふわふわと浮遊しながら。
「──鬼ごっこをしましょう」
そう言ってシアが両手の手のひらを上に向けると同時に双眸が晴天の空の色に煌めいて青白い光の玉が幾つも彼女の周囲に浮かび上がった。やがてそれは纏う光を弾くと正体を現す。
「……!」
ユウは目を見開いた。
「うふふ」
「貴様それはっ」
「皆まで言わずとも大正解です。おにいさま」
シアは笑う。
「懐かしいでしょう?」
光の玉の中から現れたそれはぱっと見はただのモンスターボールのようだが、形や大きさはともかく黒く塗り潰された表面に描かれた本来白である部分が黄色で眼球は赤といった一つ目の模様が何とも不気味でたじろいでしまう。
「これは過去におにいさまの先祖が他のポケモンを無理矢理従わせる為に作り出したとされる通称"ミュウツーボール"」
シアは説明口調で語りながら、次いでゆっくりと左右に揺れた後その場でくるっと回って。
「このボールは例えトレーナーと契りを結んだポケモンであれ容赦なく捕らえる冷酷非道な性質を持ちます──つまり、この子たちが鬼です」
重く垂れた服の袖を口元に運んで笑う。
「せいぜい捕まらないように逃げてください」
「待て、シア!」
ユウが声を上げるも聞く素振りすら見せず。
「制限時間は十五分」
「シア!」
ミュウツーボールに青白い光が灯る。
「おにいさま」
目を細めて微笑。
「またあとで会いましょう?」