災厄の君へ
いつの間に。どうしてそこに。
「スピカ!」
膝を抱えて浮遊しながら逆さまの状態でスピカの顔を覗き込んで笑うシアの姿がそこにあった。不意打ちのあまり言葉を失っていたスピカもルーティが声を上げると硬直が解かれたのか途端に眉を顰めて腕を払い黒の電撃を放つ。
「ふふっ」
当然のように空間転移で回避したシアが次に現れたのは玄関から見て正面の両階段の向かって左側の手摺りの上。両脚を交互に揺らしながら視線を受ければ肩を竦めて微笑。
「シア」
ユウは険しい表情で一歩進み出て口を開く。
「他の連中は無関係の筈だ」
「そうかしら」
「貴様の目的は私だろう」
シアは指先を合わせて笑った。
「もちろんです。……でも、おにいさま」
瞬きをする間もなく姿が消える。
「だからこそ──必要不可欠なんです」
次の瞬間。
シアはユウの背後に現れる。
「ユウ!」
リオンが叫ぶ。
「あれだけのことをされたのに。だぁれもおにいさまのことを責めないだなんて不思議……これも築き上げた信用の賜物といったところかしら──人はそれを"絆"と呼ぶのだけれど」
シアはユウの肩に手を置きながら。
「ねぇ。おにいさま」
囁きかける。
「おにいさまはどんな顔をして絶望するの?」