災厄の君へ
感心したように無意識の内に小さくこぼすルーティを睨むでもなく尻目に捉えて口を開こうとしたユウだったがそれより早く。
「聞き捨てならないわよルーティ・フォン!」
癪に障ったのであろうルルトがそう言ってそのまま荒々しく進み出るのだからルーティもあわあわと慌ててスピカを盾にして縮こまる。
「どうして命を危険に晒した相手を褒めようなどという発想に至るのかしら!」
「た、たたた、ただの感想だって……!」
ひょいひょいと右から覗き込まれれば左へ。左から覗き込まれれば右へ避けるように頭を出した後伸びてきた手を躱してスピカを中心にぐるぐると追いかけっこをするものだから当然歩きにくい。その内にスピカも堪忍袋の尾が切れて、
「ああもう邪魔ッ! 向こうに行け!」
……何を遊んでいるんだか。
「何をやっているのよ」
「お、おにぃ……」
リムとピチカが呆れたように口々に。ルーティは気まずそうに苦笑い。
「……あいつは宗家の長女だからな」
気を取り直すようにひと呼吸置いたユウが言えばルーティは小首を傾げた。
「それってそんなに凄いの?」
「もちろんよ」
答えたのはリムだった。
「ブランの宗家はこれまでに幾つもの事業を成功させているし、メヌエルの発展を一番手助けしているのだと言っても過言じゃないわ。それは今に始まった話じゃなくて昔からそう」
ルーティは思わず目を丸くする。
「全然知らなかった……」
「慈善活動のようなものだからな」
ユウは答える。
「過去、争いを起こした先祖の尻拭いをしてやる為にやらされているというだけの話。どんな功績だったとしても得られる栄誉なんてものは雀の涙にも満たない──表立って讃えられるような事はこれから先もないだろうな」