災厄の君へ
虚言じゃない。それだけの覚悟はある──
まるで氷のように冷たく刺すような鋭い目付きで物思いに耽るユウをリオンは黙って見つめていたが、この場でじっとしていても埒が明かないと感じたのは皆同じだったらしく座っていたものが立ち上がり腕を伸ばしてみたりと準備する音に振り返って。それでも何か思うところがあるのか一度目を伏せたが扉に手を掛ける音に頭の上の犬耳を跳ねて向き直る。
「行くぞ」
扉を開けて通路に出るとその場所は本当に古ぼけた洋館のようだった。床に敷かれた金色の刺繍の施された赤い絨毯は要所要所が煤けていて天井もとてもじゃないが蜘蛛の巣が目立つ──昔は何処ぞの金持ちでも住んでいたのだろうが見た目通り今は使われていないのだろう。
「お、お化けとか出たりしないよね」
ピチカはリムの服の裾を掴みながら言った。
「その時は僕が成敗してやるさ!」
「あなたねぇ」
「病み上がりは大人しくしてろっての」
他愛のないやり取り。
「一体何処にある建物かしら」
ルルトが呟いた。
「スピカ……変なこと聞くけどまさかマスターとクレイジーの仕業とかじゃないよね?」
「あいつらがユウの身内を
ルーティの推測にスピカは呆れたように。
「ないない。あいつら"スマッシュブラザーズ"以外にはまるで興味がないからな」
スマッシュブラザーズとはゲームのキャラクターの模造品──つまりそれ本人ではないにしても精巧に設定も現在過去未来の成り立ちも運命も人物像も何もかも全て忠実に似せられて作られた存在の事を指している。それは誉なのかはたまた汚辱なのか捉え方次第だろうが兎角それに含まれていればこの世界の主たるマスターハンドもクレイジーハンドも多少は目を掛けてくれるのだが、それ以外に関しては極めて関心が薄い。
「じゃあやっぱり、あの子だけで?」
ルーティは暫しの沈黙の後、ぽつりと呟く。
「凄いなあ……」