災厄の君へ
無言というわけでもない──が、そのやり取りを境に誰が誰に何を遠慮しているのか言葉を交わすのだとしても二言三言小声で済ませながら。いい加減に壁に掛けられた振り子時計の音も煩わしく感じてきた頃──呻く声と身じろぐ音。
「っ、ローナ!」
「ルルト!」
ようやく彼女たちが体を起こせるほどに回復したのだ。それぞれがネロとラッシュの手を借りながらだがそれでも意識が混濁した様子もなく体力を蝕んでいた毒は解毒剤の効果からすっかり失せてしまったようで。
「ローナぁ! 心配したんだよぉ!」
「あはは……ごめんよピチカぁ」
「まったく心配させて」
即座にリムの腕の中から飛び出してローナに飛び付くピチカとその傍らで小さく息をつくシフォン。その一方でルルトはまさか自分がこんな目に遭うものとは思いもしなかったのだろう、自身の油断を悔やむように頭を抱えて。
「ルルト・ムーステッカー、一生の不覚だわ」
「まァまァ……そう責めなさんな」
「あれは拙者とて回避不可能の事態で御座る」
励ますようにラッシュとミカゲが口々に。
「何とかなってよかったね」
「とりあえず一つの山を越えたな」
息を吐くスピカにルーティは小さく笑う。
「それで。これからどうするんだよ」
スピカが視線を投げかけた先にはユウの姿。
「あいつを探し出す」
「それから?」
続けざま質問されれば冷たく目の色を変えて。
「……方を付ける」