災厄の君へ



高笑いをして。次の瞬間少女を中心に渦巻くように強い風が巻き起これば誰も瞼を開けていられず目を伏せてしまい──次に顔を上げるとそこには紛れもないシアの姿があった。相変わらずふわふわと浮遊しながら微笑を湛えてシフォンに近付き警戒など気にも留めずにある物を差し出す。

「ごめんなさい。こちらが本物です」

シフォンは小さく目を開く。

「もちろん貴女の奪ったものが毒だという話じゃない。確かにそれは解毒剤ではあるけれど彼女に与えた毒には対応していないというだけ──その点で言えば貴女はなんにも間違っていないわ」

シアがにっこりと笑うとシフォンは差し出されたそれを半ば奪い取るようにして手に取った。そういった仕草もシアは微塵も気にしていない様子で今度はミカゲ達を振り返る。

「対して貴方が奪ったものは本物──よく見極めました。それとも運が良かっただけかしら」
「褒めるなら自分の運を褒められたら如何か」

ミカゲは冷たく見据える。

「うふふふっ。すこし熱かったけれど平気だわ。だって私の中には全てのポケモンの遺伝子を持つミュウの血が流れているもの」

シアはその場でくるっと回って肩を竦めて笑う。

「おにいさまとはちがうのよ」


次の瞬間だった。


「、!」

地面が大きく揺れ動き地震を疑ったのも束の間たちまち景色が歪み──どういう原理か森の中だったはずのその場所は洋館か屋敷か兎角広い建物の一室に早変わりしてしまったのだ。

「はやく解毒剤を使って差し上げて」

いつの間にかシアの姿は何処にもなく。

声だけが響く。

「またあとで会いましょう?」
 
 
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