災厄の君へ



ネロはローナを慎重に下ろして地面に寝かせると上体を抱き起こしながらシフォンを待った。シフォンは注射器を右手にその傍らにゆっくりと膝を付いてローナの腕を左手で手に取る。

「大丈夫なのかよ」
「毒を使っている私が解毒剤の使い方を知らないはずがないでしょう」

投げかけられた疑問は視線を遣らないまま冷静に返してシフォンは注射器の針を肘裏あてがった。


「待て」


不意に口を開いたのはユウである。

「その程度で騙したつもりか?」

手を止めたシフォンはゆっくりと視線を向ける。

「どういうことかしら」
「リオン」

ユウが無視して呼ぶとリオンは皆の視線を受けながらゆっくりと進み出た。そうして歩を進めた先に居たその人の前で立ち止まり、──何の前触れもなく波動を纏い回し蹴りを繰り出す。

「!」

スピカは目を開いた。

「少し安直過ぎるぞ従兄妹殿」

リオンは回避した先のその人を振り返る。


「ピチカ殿の匂いはそれじゃない」


その相手は──なんとピチカだった。

「み、皆ぁ早過ぎるよお」

ここで本人登場。遥か後方を迷いながらも走っていたらしい彼女はようやく合流を果たすと息を弾ませながら顔を上げたが自分と瓜二つの少女を見つけると思わず仰け反って、

「ぼぼぼっ僕ぅ!?」
「……うふふ」

ピチカの姿をした少女は肩を竦めて笑い出す。
 
 
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