災厄の君へ
地面を蹴り出し、後を追う。
「っ……ごめんなさい……こんな……」
「いいからじっとしてろい!」
ラッシュに横抱きされたルルトは苦しそうに固く目を瞑りながら身を委ねていた。額に滲んだ汗と青ざめた顔、その上虫の息のようなか細い呼吸に不安ばかりが煽られる中同じくローナを背負って走っていたネロが声を上げる。
「おい、ユウ!」
浮遊と組み合わせて駆けているお陰で他より少ない歩幅でとん、とんとボールが跳ねるように突き進んでいくユウにネロは続ける。
「お前の従兄妹なんだろ!」
ユウは口を閉ざしている。
「何かあったのかよ!」
……眉を顰める。
「ユウと従兄妹殿には蟠りがあるんだ!」
代わりにリオンが答えた。
「蟠りぃ!?」
ネロは眉を寄せる。
「……俺にはよく分かんねーけど!」
そうして数メートル先に窺えるシアを見失わないように追いかけながら。
「何かしたのかよ!」
「……いや」
ユウは思考を巡らせる。
彼女が幼い頃から自分と比べられることで負の感情を抱いていた事は知っていた。予測だ予知だの問題を抜きにしても結局のところは全ての盤面において彼女は自分よりも劣っていた。性別の差ではないと理解した時からなるべく彼女含む両家と距離を置くことを心掛けた。
関係の修復を執拗に望んでいたわけでもない。
最善を選び取ったつもりだった。
それは彼女にとっても──自分にとっても。
「何もしなかったってことかよ」
ネロが言うとユウはハッと目を開いた。
「加勢するわ。ローナをお願い」
シフォンが口を挟む。
「ああ。頼んだ」