災厄の君へ



右へ左へ。木の間を縫うようにして時折楽しそうにくるりと回って飛ぶ様はあからさまにこの状況を楽しんでいる──ミカゲは木の枝を蹴り出すと印を結んだ。途端周囲に掌サイズの泡が発生、次いで泡の中に手を突っ込むと水で形成された手裏剣が取り出されて勢いを落とさないままにそれをシアに向かって次々と投げ付ける。

「うふふ」

ふわり、ふわりと速度は落とさずに回避して振り返ったシアは小さく笑み。

「野蛮なひと──」

言いかけたところでシアの両側を掠めるようにして黒の雷撃と青の雷撃が過ぎた。たまたま逸れたのか逸らしたのかそれの犠牲となった木々が倒れかかるのをシアは咄嗟に空間転移を使って躱す。

「はあっ!」

その隙を見逃すはずもなく次に姿を現した瞬間拳を振るったのはリムである。これには流石のシアも浮かべていた笑みを失せて攻撃を回避しながら腕に手を置いてそのまま流した後──

「、!」

シアの双眸が青く瞬いた。次の瞬間、シアの体が消えたかと思うと巨大な鋼の槌が空中で身動きの取れないリムの体を殴り付けて吹き飛ばす。

「リム!」
「うふふふっ」

思わず叫んだルーティの目前に。

「私。なんでもできるのよ」

シアは後ろ手を組みながら笑いかける──そうして彼女が姿を消した途端ルーティの足下が不自然に盛り上がり巨大な瓦礫が突き出した。「うわあっ!」と声を上げて直撃まではいかずとも弾き飛ばされてしまうルーティをスピカは焦りを滲ませながら振り返って舌打ち。

「ほら、ほら」

シアは姿を現すと煌めきを引き連れながら、木の周りをくるりと回って肩を竦めて。

「星の導きが朽ちてしまう前に」

目を細めて笑み。

「はやく。私をつかまえて?」
 
 
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