災厄の君へ
全員が目の色を変えてその場所の中央に背中を向けるような形で構えたりそうでなくとも周囲に目配せをして警戒を走らせる判断は大袈裟でもなければ間違いでもなかった。身内とはいえ初手でこんな事を仕出かしておいて次は何を仕掛けてくるものか分からない──そんな当然とも言える各々の動きを何処から見張っているのやらシアはくすくすと小さく笑みを溢して、
「そんなに警戒なさらなくても」
「何処にいる。さっさと姿を現せ」
ユウは眉を寄せて冷たく重く言い放つ。
「あら、あら」
──次の瞬間ユウから見て前方数メートル先に青白い光の玉が現れた。それは次第に膨張していくと遂には弾けてしまい次いで淡い光を纏いながら浮遊した少女が姿を現す。
「こわい顔」
少女シアは肩を竦めた。
「何のつもりだ」
「……ふふ」
「おい、シア」
シアは笑い出す。
「うふふふふふふふ」
──何を考えているんだ? 気が狂ったのかとでも言ってしまいそうな脈絡のないそれに誰もが呆気に取られてしまっていた。そんな此方の気など知る由もなくシアは嬉々とした声で口を開く。
「ゲームをしましょう」
ユウは改めて眉を顰める。
「ほざけ。貴様の勝手な都合を押し付けるな」
「そうは仰っても下拵えは終えられているのに」
その言葉の解は聞くまでもなく訪れる。
「っ、」
「ローナ?」
シフォンが振り返る。
「く……っ」
ローナに続けて膝を付いたのはルルト。
「どうした!」
「見せるで御座る」
即座に駆け寄って身を案じるラッシュの傍ら、あくまでも冷静にミカゲは跪きながらルルトの顔を覗き込んで顔色を確認した後首に手の甲を当ててそれから髪を払い首後ろを確認する。
「……!」
「どっどうだってんだい?」
ラッシュが訊くとミカゲは顔を顰めながら。
「……貴様」
怒り露わにシアを振り返る。
「彼女らに毒を盛ったな……!」