災厄の君へ
少し通り掛かっただけで使用人の男性や女性が頭を下げるのにむずむずとしたものを感じながら。それでも玄関さえ過ぎてしまえば強気に出られるというものでルーティは変わらず早足で先を歩くユウに追い付こうと踏み出した。言いたい事も聞きたい事も山程あるといったところで意気込みも虚しく肩を掴まれて。
「ルーティ殿」
リオンは何を言われるより先に口を開く。
「ここは私に任せてくれないか」
ルーティは思わず口を結んだ。
彼は──心の中を透視することができる。何を何処まで視たのかは本人しか知り得ないが意気込みに対してこうした対応を見せるという事は正しくないと判断されたか。そうなるとほんの少し落ち込むものがあるが続けざまリオンが微笑みかけるとそんな不安も幾らか和らいだ。
「ユウのことを気にかけてくれてありがとう」
「……うん」
ルーティは頷く。
「僕、ピチカ達と合流してくるよ」
通話越しに怒られてしまう前に預ける形となった荷物は受け取りたいところ。
「分かった」
ルーティが言うと今度はリオンが頷いた。これからどうするのか気になるところだがこうして引き止めている間にもユウの背中は遠ざかっていく。
「ユウのことお願い」
背中を押すように言うとリオンは小さく笑って駆け足でユウの後を追いかけていった。その場に残されたルーティは短く息を吐いてそれからキョロキョロと辺りを見回す。
「飛行場、……どっちだったっけ?」
こうなることは目に見えていた。
だからこそ。
「ユウ」
追いついてきたリオンが手を伸ばそうとしたがユウは足を止めると鋭く睨み付けた。やり場のない苛立ちが確かにその目に込められているのを見て思わず口を閉ざすリオンだったがやがて短く息を吐き出して。