災厄の君へ



そこには一組の男女が立っていた。

女性は宵闇のような黒髪を腰まで流した垂れ目の穏やかな印象を受ける風貌で男性は恐らく肩までの長さである藤色の髪を下の方で一纏めに結っていて切れ長の目をしているが鋭さまでは感じられない──ルーティはそっとユウを見上げた。

……似ている。説明を受けずとも恐らく正面の男女こそユウの本当の両親なのだろう。

「心配しなくとも挨拶は済んだ。もう出る」

せっかくの再会だというのに対するユウはこの態度である。ふんと小さく鼻を鳴らして愛想など見受けられず冷たく言い放って早足で歩を進める。

「すっすみません」
「君は」
「あ、えっと」

ユウが二人の横を抜けていくので軽く頭を下げながら続こうとすれば呼び止められた。振り返れど彼が足を止めて待ってくれているはずもなく半ば焦りながらもルーティは挨拶を優先する。

「ルーティ・フォン……です」
「ああ。ラディスの」
「ちょっと貴方」

女性が気を利かせて男性の袖を引いた。

「あ、ああ。……すまない」

男性は苦笑気味に言ってユウの背を見遣る。

「彼のことは我々が」
「……えっと」
「リオン・ヴィオレスタ。パートナーです」

そうか、と男性は小さく呟いた。

「……息子をよろしくお願いします」

男性と女性が揃って頭を下げている間にも肝心のユウの背中はどんどん遠ざかっていく。

「は、はい」
「行こうルーティ殿」

リオンに肩を叩かれてルーティは頷いた。

……もう。せっかく会えたんだし本当の両親相手くらいゆっくり話していけばよかったのに──
 
 
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