災厄の君へ
厭に心臓が騒いでいる──ルーティは思わず口を固く結んで静かに息を呑むと恐る恐る彼女に目を向けた。室内は明かりに恵まれていないばかりに偶然か必然か彼女の目元に影を落として。
「存じ上げております」
シアは口元に笑みを浮かべて応える。
「お前は口ばかりですね。シア」
女性が追い討ちをかけるように。
「予知と予測には絶対的な差があります」
「……存じ上げております」
繰り返す。
「私は誇り高き宗家の娘ですもの」
空気が煮詰まっていく。
「おにいさまとて所詮は分家」
ユウは冷めた目で見つめている。
「恐るるに足りません」
……これは。
仲が悪いだけの問題ではなさそうだ──
「話が済んだなら席を外すが」
ユウが告げると空気が僅かに和らいだ。
「あらあら。ゆっくりしていいのに」
女性は打って変わって優しい声音で語りかける。
「あなたは私たちの大切な家族なのだから」