災厄の君へ
「……おい」
「申し遅れました」
リオンは背筋を伸ばして拳を握る。
「私の名前はリオン・ヴィオレスタ──」
「、ふざけるな」
僅かに震えた声を潜めて叱るのはユウである。口角をひくひくさせながら振り向いた彼のこめかみには案の定青筋が浮かんでいて。
「貴様はこの私に恥をかかせるつもりか」
「何を言う。今更恥ずかしがるような事では」
「時と場合を考えろと言っている」
「今はその時じゃないと」
「この先もあると思うなっ」
……まるで夫婦漫才のようである。
「あらあら」
二人のやり取りを目に女性はくすくす。
「ヴィオレスタの子息か」
一方で男性はリオンの家系を知っていた様子でそんな事を呟いた。ユウは最後にリオンをひと睨みしてから座り直す。
「流石だな。あの一族の犬を飼い慣らすとは」
そうして軽快に笑い飛ばしたのも束の間。
「シア。またひとつ差が開いたぞ」
一瞬にして。
この部屋の空気が凍り付くのを感じた。
「どうするつもりだ」
男性は一見して穏やかな冷めきった口調で。
「……シア」