災厄の君へ



……静かだな。

最初の内は街から外れた森の中にあるからこそ静謐に満たされているのだろうと思っていた。けれど玄関を過ぎて暫く歩いても尚この家には正気を感じられないというか──まるで時が止まってしまっているかのような妙な感覚さえ覚える。時折聞こえる小鳥の囀りがそうではないと現実に引き戻してくれるのでまだいいが居心地は良くない。

そこまで思ったところでルーティはちらっと隣を歩くリオンを見上げた。最愛のパートナーの実家ともなればやれ婚約だ何だと騒ぐものだと思ったが彼もまた終始沈黙している。自分がこうも思うくらいなのだ彼が大人しくしているということはまさしくそういうことなのだろう。


一体。この家にはどんな事情があるのか──


先頭を歩いていた女性が大扉を前にようやく立ち止まった。静かに扉を叩いて呼びかける。

「ユウ様がいらっしゃいました」

返事はすぐに返ってきた。

「……入りなさい」

思うより低い声に変に緊張して体を強張らせるルーティを横目に見た後ユウは扉を押し開く。途端にがらんとした無垢フローリングの三十畳程あるであろう広間が迎えて、圧倒。

向かって正面奥にはすだれを挟んで二つの影──そしてその横には正座をしたシアの姿。此方に気付くなりにっこりと笑って手を振ってきたがとにかくあの二つの影こそ彼女の両親なのだろう。

ユウは本当に小さく息を吐き出すと歩を進めた。すぐ目の前までは行かずにある程度の距離を置いて床に正座をするのに従ってルーティとリオンはその後ろで横並びになって正座する。

「あら」

女性が真っ先に口を開いた。

「そちらの方は……?」
 
 
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