災厄の君へ
悲しげに告げられたそれが決して純粋な親切心からくるものではないと悟ったのであろう、ユウは眉を寄せながら小さく舌打ちをした。ここまでのやり取りを見ておいて今更仲が良いものとは到底思えない──何とかこの場を治めなくてはとルーティが口を開こうとしたその時だった。
「……いい」
先に口を開いたのはユウの方で。
「お前に連れ戻されたと思われるのは癪だ」
「おにいさま?」
「先に戻っていろ」
苛立ちこそ隠しきれてはいないが感情を極力抑え込みながら目を逸らして。
「……後で行く」
それを聞くと。
シアは目を細めてほくそ笑んだ。
「嬉しい。お父さまもお母さまもきっとお喜びになります」
指先を合わせて嬉しそうに。肩を竦めて愛くるしく。すっかり上機嫌となった彼女は喜びを体現するかのように浮遊しながらその場でくるっと一度回ると次いで後ろ手を組みながら。
「では。おにいさま」
双眸が青く灯れば瞬きをする間もなく。
「またあとで」
嵐と表現するにはあまりにも静かで可憐で──けれどこの疲れがどっと出るような感覚は少なくとも彼に対する彼女の振る舞いが褒められたものじゃなかったことをよく表している。兎角シアが掻き消すように姿を消してくれたことでルーティは思わず安堵の息。
「そういえば荷物は?」
だというのに母親ときたら気にも留めていないのやらそんな質問を投げかけるのだから困惑。
「あ、……えっと」
「お友達に預けてるのね」
そんな感じです、とぎこちなく。
「とりあえずお父さんに挨拶しちゃいなさい」
すっかり忘れていた。再会して早々なかなかの修羅場を見せてしまったものである。
「ユウくん。……それと」
「彼のパートナーのリオンです」
聞かれるよりも先胸に手を置きながら自ら答えるリオンにルピリアは微笑みかける。
「リオンくんね。二人もこっちにいらっしゃい」