災厄の君へ



適当に歩いていたつもりもないが見覚えのある道に出てくるとほっとした。十数年過ごした故郷の地と言えど地元住民さえ迷わせる緑の生命力ときたら侮れない──全ての道が整備されているわけではないのだから仕方ないが見知った道が茂みに潰されていたのは少し焦った。

ようやくといったところか道脇の木々がアーチのようにしなって左右に交えているのを見上げればもうすぐそこだと。うっかり浮き足立ってしまわないようにけれども気持ち早足になりながら木々の間を抜ければ視界一杯に出迎えたのは。


一際目を引く。奪われる。黄金の──


「あら?」

今まさに向日葵畑に囲われた墓石に駆け寄ろうとしていたルーティは思わず足を止めた。

「!」

そしてぱっと顔を輝かせる。


「母さん!」


まさか。

こんなタイミングで会えるなんて。


「この子ったら」

腕の中に駆け込んだルーティを抱き留める黄金色の髪を流したエプロン姿の女性はルーティの母親であるルピリアだった。遅れて開きまで出てきたユウとリオンも母子の感動の再会に思わず顔を綻ばせたがその二人の後ろにもう一つ影を見つけてユウは思わず目の色を変える。

「帰ってくるだなんて聞いてなかったわよ?」
「へへ……母さんを驚かせたくて」

遅れて気が付いたルーティもルピリアの腕の中に収まったまま顔を覗かせる。

「……?」

薄い桃色の髪をサイドにお団子にして纏めた愛らしい風貌の少女が一人。所謂中華風の衣装を身に纏った華奢な見た目の少女は靴を履いていないがその代わりに終始浮いている。

「ああ。この子はね」

ルピリアはルーティを解放しながら。

「熊に襲われていたところを助けてくれたのよ」
「ええっ大丈夫だったの?」
「すごく強くて頼もしい子だったわ」

ルーティは思わず飛び出して頭を下げる。

「あのっ母がお世話になりました」
「いいえ。どうか気になさらないで」

目を細めて柔らかく微笑。

「全ての生命は等しく尊いもの」

胸に手を置きながら。

「決して壊さぬように取り零さないように慈愛の精神をもって頭の先から爪の先まで尽くす。それこそが我々ブランにとって当然至極の行いであり先人の過ちに対する償いへと繋がるのだから」
 
 
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