井蛙の教訓



「ミカゲ」

ばちん、と。現実に引き戻される。

「聞いているのか」


一夜明けたフォーエス寮。ロックマンの部屋。

「……はい」

俯きがちに応える。密かに溜め息を吐けば瓶底眼鏡が曇って余計に滑稽だった。そんなことさえ気にも留められない程に昨夜の出来事が円を描くようにぐるぐると脳裏を渦巻いて。任務を全うする上での殺しに美学も芸術も求めるべきではない──そうは分かっていても何より長く携わってきた仕事なだけに理想の形というものが存在する。押し付けるつもりはないが理解はしてほしいとさえ思う。そうでなくては仕事を熟す上で別の仕事を増やしてしまう。

「……今回の件に関して」

ロックマンはゆっくりと口を開く。

「結論から言うが。気にしなくていい」
「、……え」

ミカゲは重く頭を起こした。

「確かに想定よりも被害は拡大してしまったが俺に言わせてみれば悪に加担する人間も同じく悪。等しく罰するのは間違いではない」

この人のこの考えは正義を信仰している狂っていると思うこともあったが今回ばかりは救いとなってしまった。結果として活動方針に沿っていたのなら一つの正義と認められるなら。


……いや。違う。

駄目だ。……納得がいかない。


「そう気を落とすことはないさ」

ロックマンは微笑みかける。

「昨日の今日。まだまだこれからの話だろう」

励ますように語りかける。

「お前もあまり気に病まずに」

厭に響く。

「頑張りなさい」
 
 
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