井蛙の教訓



──セフィロス!

男は痛ましい悲鳴をあげるがそんなことは最早どうでもいい。次から次へとどうして彼らときたらこの任務はあくまでも"暗殺"であるのに対しこうも派手に目立ちたがるのか。もちろんそのつもりはないのだとしても彼らの立ち回りでは次々と敵を引き寄せてしまうだけの話。

「ミカゲ」

呼ぶ声がして振り返るとそこにはジョーカーの姿があった。新人隊員の中でも彼は同じように裏世界に通じているばかりではなく冷静でそもそもの言葉数が少ないので信頼が出来る。

「こっちだ」

お陰様で集られている様子のコウとセフィロスには申し訳ないが構っていられない。先に潜入したツツイを野放しにしている方が大問題だ。

深く頷いたのを確認して転々と跳んで移動するジョーカーの後を追いかける。予め手回ししておいたのであろう案内された先の窓を開けても迎えたのは警報ではなく静寂でミカゲはその奥に広がる暗闇を相手に目を凝らす。──微かだがインクの跡が点々と窺える。

「恩に着るで御座る」
「……ああ」

ジョーカーの答え方には少し違和感があった。けれどこの時点では特に問い質すまでもないと判断してミカゲはいよいよ室内へ──床に足を乗せても音沙汰もなく。ミカゲはジョーカーとちらりと視線を交わしてから駆け出す。

「匂いがする」

ジョーカーが呟いた。

彼が気付いているということは当然ミカゲも鼻につく嫌な匂いに気付いていた。気付けば自分たちの足音も何処か粘り気のあるような、兎角何か液体を踏んだような音にすり替わっておりある程度のこと察する。そうして駆けゆく通路を曲がったなら待ち兼ねた答え合わせ。

「……フン」

──男が解放した亡き骸は頭を潰されていた。びゅうびゅうと噴水のように血をあげながらかつて女だったか或いは男だったかそれすら判別もつかないそれは膝を付いて横たわる。その側には当然ツツイも居て惨状を目にしたにも関わらず明るい声で。

「カズヤおじさんすごいねー!」
「この程度のこと造作もないわ」

ああもう。どうして。

今日が最後だと思った日に限って。……
 
 
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