僕たちの道標
帽子の鍔を掴んで軽く持ち上げる。その視線の先でバトルするポケモンの選出を終えた少女が立ち上がり振り返った。──尊敬するその人と同じく冷たさを孕んだその目はきっとバトルの一手先二手先を既に見据えている様で。
砂利を踏み込む音。向き合えば、風が草の葉を巻き込んで吹き抜ける。空気の色が変わるのを感じてグリーンはふっと笑みをこぼした。この場に観客は居ないが彼らの気も知れず囁く鳥がそれだった。ふと何かを感じ取ったかのように鳥たちが飛び立つ──ブルーはボールに願いを込めるように額に当てて目を瞑ると、今度解き放つようにして戦場に投げ打つ。
「カメックス!」
無難な選出。相性を考慮するならばシフォンを繰り出すべきなのだろうがそれこそ相手の思う壺というものだろう。かといってネロを選出するのは例え彼自身が飛び抜けて強かろうと相性面で言えば間違っている。であれば。
「──はぁい!」
言うより早くローナが飛び出した。地面に着地したカメックスに姿勢低くまっしぐら、とんと軽く地を蹴って懐に潜り込み、蹴り上げる。
「ゼニガメ!?」
たじろぐのも無理もない。いくら裏をかくためだとしてもカメックスはゼニガメの最終進化であり種族値も異なる。ブルーは頭を振った──考えもなしに繰り出すような人じゃない。ただ一つ確実なのはまだ仲間に加えたばかりで努力値を振っていないという点。対する此方の繰り出したカメックスは旅のパートナーとは異なる個体。研究に研究を重ね個体値の厳選や卵技にまで拘った一級品。レッドが不在であった期間ロケット団の残党を容易く一蹴した切り札。
「──からをやぶる!」
素早さはこれで二百十二を上回る──あの人の今の手持ちではこの素早さに勝らないのだから三枚抜きは容易。ブルーが指示を出すと蹴りを受けて大きくのけ反っていたカメックスはそのまま甲羅の中に頭尻尾と四肢を引っ込め、後転した。暗い甲羅の奥でぎらりと目が光り即座に頭尻尾と四肢を生やすと甲羅の砲台を構える。ブルーが指示を繰り出すより早く砲台はその奥で光を吸収していき一気に放出する。
「ハイドロ、」
技名を叫ぶ頃にはローナの姿はなかった。瞬きを許された一瞬の隙躱された事実に冷や汗を一筋と陰りを見つけて追うように見上げればその刹那、花弁が渦を巻いてカメックスを襲う。
「上出来だわ」
シフォンは空中でくるりと身を翻して。
「後は」
──任せたわよ。