僕たちの道標



母は名残惜しそうに抱き締める。

「本当。すぐどこかに行っちゃうんだから」

レッドは瞼を伏せる。

「次はもっと早く戻ってくるよ」
「いいえ」

母はゆっくりと解放して微笑みかける。

「立派に成長してから帰ってらっしゃい」

髪を触れて愛おしそうに。

「ここはいつでも貴方の家よ」


溢れそうになる感情を呑み込んで。


「……レッド」

顔を上げて向き合う。

「いってらっしゃい」
「うん。──いってきます!」


こんなに清々しい気持ちで一つの町を出たのはいつ以来だろう。背中を押すように吹き抜ける故郷の風に様々な思いを乗せて旅立つ。どんな出来事がこの先待ち受けているだろうと密かに胸をときめかせながら羽根のような足取りで。

「フェアリータイプって知ってるか?」
「もちろん。ちゃんと調べてるよ」
「抜かりのないことで」

道中。他愛のない言葉を交わしていたが。

「ブルー?」

不意に足を止めた彼女に怪訝そうに振り向いたグリーンに釣られて振り返った。
 
 
72/80ページ
スキ