僕たちの道標
それから。家に戻って──母さんに説明して。
思ったより驚いていなかったな。三人家族の内二人が放浪癖があるものだから今の今更咎めるつもりにもなれなかったのかもしれない。
「大切にしてあげなさい」
夕飯の最中。ぽつりと呟かれたその言葉をこれから先忘れるはずもないだろう。……
旅立ちの日がやってきた。
今日という何でもない日のほんの片隅の出来事だというのに途中まで見送るのだとグリーンとブルーが駆けつけてきてくれたのには驚いた。
「忘れ物は?」
「大丈夫だって」
向き合う母の心配性に苦笑いを浮かべて。
「……本当によかったの?」
レッドが膝に手を置いて少しだけ前屈みになりながら訊いた先にはピカチュウがいた。自分に彼らポケモンの言葉は分からないが兄妹曰く、自分は此処に残るのだという。
「気を遣わせちゃったかな」
「ピッカチュ」
「違うみたいだよ?」
ローナが覗き込むようにして答える。
「自分までこの旅について行ったらせっかくの機会なのにレッドが新しい一歩を踏み出せなくなってしまうかもしれないからだって」
「ピカピカ」
ピカチュウはこくこくと頷いて、
「ピ!」
深く深く頭を下げた。
「分かってるよ」
「僕たち強いからね!」
「約束するわ」
口々に返す兄妹に疑問符を浮かべながら。
「ピカチュウはなんて言ったの?」
「言っちゃだめだよ!」
「教えねえよ」
「気になるのなら当ててごらんなさい」
「えぇ……」